メンズファッションにまつわる商品企画、ブランドディレクション、コンサルタントなど幅広く活躍。クラシックのスタイルを基軸としつつも、そこに独自の感性で古着などをミックスするコーディネートに定評あり。著書に『Nishiguchi Essentials 100』『Nishiguchi’s Closet』。Instagramのフォロワーは2022年9月時点で14万1000人を越える。
ドレスファッションに精通し、数多くのメンズファッション誌やトップブランドからオファーを受ける人気スタイリスト。武内雅英氏に師事し、2010年に独立。現在はスタイリストだけでなく、ショップやブランドのアイテムプロデュースを手掛けるなど、活躍の幅を広げている。
オンオフ使えるダウンジャケットという視点で考えるとまず“ジャケットが隠れる丈”は絶対条件。
丈感は外せませんね。あと“フードの取り外しができる”のも個人的にはポイントだと考えてます。いまでこそドレスアイテムにフードやファーが付いたダウンジャケットを羽織るのも違和感ありませんが、数年前は取り外すのが主流でしたよね。
確かに。フードは取り外しできるに越したことはありませんね。例えばこのアークティックパーカ。20年前にクラシコイタリアを中心に大流行したときがありましたが、当時はファーを取り外して着る人も多かったですね。
そうですよね。私はその頃アシスタントでしたが凄くアークティックパーカに憧れを抱いていて、独立したタイミングですぐに購入したのを覚えています(笑)。たしか色はベージュを買いました。
本当ですか、同じく私もベージュを着ていました!ブラックやネイビーも間違いないですが、実は70年代に登場したアークティックパーカは生成りのようなベージュがオリジナルで、とてもクラシックな見た目で格好良い。
またクラシコイタリアの流行時は窮屈なぐらい細身のスタイルが主流で、悩んだ挙句ワンサイズダウンしたものを購入したのですが、後からとても後悔したのを覚えています(笑)。今なら、間違いなくジャストサイズを選びますね。
ダウンジャケットは“ジャストサイズを選ぶ”のも重要なポイントですね。窮屈過ぎたら着心地が悪いし、逆にオーバーサイズで着ると冷風が入ってきて寒い。
間違いないですね。もちろんデザイナーズブランドが展開するデザイン物などの例外もありますが、いい歳の大人がサイズの合っていないダウンジャケットを着ると、無理している感が出る気もします。
最後に“生地は光り過ぎていないものを選ぶ”ですかね。光沢が強過ぎるダウンジャケットは、似合う服が限られてくる。
そうですね。逆にマットな質感であれば、60/40クロスのようなスポーティな素材や、ウール100%の上品な生地などバリエーションはありますが、どれもドレス・カジュアルともに合わせやすい。
あえてナイロンの生地のダウンジャケットをドレッシーに着る。綺麗なウールのダウンジャケットをカジュアルに着こなすなど。その辺りはお好みで選んで問題無いでしょう。
着回しやすさで言うと、クラシックな軸のあるアイテムはコーディネートで遊びやすいですよね。
すごくわかります。私がスタイリングを担当するときに難しいと感じるのが、歴史的な背景の無いアイテム。クライアントから「これはどういう意図で、どういう背景でスタイリグされたんですか?」と聞かれたときにショッピングや山登りとかシチュエーションの切り口でしか話せない。逆に歴史的な背景があるアイテムなら、シチュエーション軸に加えて、その服の当時の着こなしからインスパイアされた一味違うアプローチにチャレンジしやすいんです。
たしかに、わかりやすい視点ですね。私がクラシックなアイテムをMIXして着こなすときの考え方と非常に近いです。
ですよね!それでいて時代に合わせて着心地がアップデートされているモデルなら完璧。特にヴィンテージのアウターは現代だと着られないぐらい重た過ぎるものが本当に多いので。
わかります。例えばウールリッチなら、このバッファローチェックを採用したウール製のダウンジャケットがわかりやすいですね。60~80年代のものはウールが重過ぎて着心地が悪い。それに対してこのモデルは、クラシックな形状を維持しながらスーツに使われるような軽いウール生地とダウンフェザーを組み合わせることで、見た目からは想像もつかないほど軽い着心地で暖かいです。
このバッファローチェックの柄も当時の雰囲気そのままですよね。見た目はクラシックだけど、軽くて着やすいようにアップデートされている。
そうそう、この柄はクラシックなデザインのひとつですね。ウールリッチか、格闘家のピーター・アーツを連想させる(笑)
K-1のピーター・アーツ(笑)そうですよね、自分もピーター・アーツ世代なので凄いわかります。
またチェックジャケットは見た目が可愛いので、着こなしは二枚目か三枚目のどちらかに寄せるように考えるのが基本になるのですが、どちらに振っても自由にスタイリングしやすいのは、アーカイブ的な要素があるこんなバッファローチェックだったりします。
ジャケットに柄の存在感があるので、黒のタートルネックニットに黒パンツ、足元はサイドゴアブーツを合わせてシンプルにまとめて着こなすだけでもお洒落にみえますね。
クラシックな雰囲気を維持しながら着こなしに新鮮味を持たせるなら、形状はそのままに素材や色味を変えたモデルを狙うのもおすすめ。例えばこのアリューシャンベストは本来であればアウトドアギアらしい60/40クロスを採用していると思うのですが、ロロ・ピアーナのストームシステムにチェンジすることで、往年のデザインはそのままに透湿防水の機能をプラスしながらほどよく品がプラスされていて良いですね。
*60/40クロスは透湿防水の機能というより撥水、耐摩擦性の高さのニュアンスが近いので。
少し話が脱線してしまうのですが、最近ダウンベストが凄い使えるなと思っていて。例えばスタイリストという仕事柄、真冬の早朝に外で撮影するなんてことが多いのですが、ダウンベストがあると本当に暖かくて動きやすいんです。
興味深いエピソードですが、真冬の早朝に外で仕事はスタイリストならではの特殊なシチュエーションですね(笑)
普通は朝4時に起きませんよね(笑)これぐらいダウンのボリュームがちょうど良いモデルは、ニットの上にアウターとして着るのはもちろん、実はゆったりとしたコートのインナーに重ね着するのにもピッタリなんですよね。
オーセンティックなデザインで、さらに上質なウール素材にアップデートされているので、使いやすいだけでなく羽織るだけでコーディネートが存在感のある雰囲気にまとまりますね。
イマ売れているダウンジャケットに共通する要素として、“羽織るだけで、わかりやすくお洒落にみえる存在感” があると思うんです。
そうですね。存在感は色んな要素が重なり合って演出されるものだとは思いますが、わかりやすく出るのはやはり完成された型のあるアウターかと思います。
結局そこに行き着くんですよね。繰り返しかもしれませんが、型のあるアウターって、本当に何も考えずに羽織るだけで不思議と着こなしがサマになります。歴史があるから着こなしに奥行きが生まれるというか。
おっしゃる通りですね。あと結局どのブランドも売れているのは何十年も前から販売され続けている定番モデルだったりしますよね。おそらく売れている理由はこれを着ておけば間違いないという安心感に行き着いているからだと思うんです。
西口さん、実は巷でロゴマウンティングが話題になっているのご存知ですか?
え、知らないです。なんですかそれ?
どのブランドを着てるかわかりやすくロゴがデザインされた服をあえて着て、マウンティングするらしいです(笑)
えぇ…凄い世界ですね(笑)
まあただ、私は男の洋服はこれみよがし感が無い方が良いと思います。言ってしまえば、ロゴが強調されていない“良い意味で地味”な服。デザインが完成されたウールリッチのアウターは、まさしくそれが当てはまるんですよね。
わかります。ロゴマウンティングの世界とは違う軸にいるイメージがあって好感が持てますよね。
そうですね、男の洋服は地味で良い。わかる人にわかってもらいたいぐらいの感覚が良いと私は思います。
高級感のあるスーツにモックネックニットを同トーンで合わせて、足元には黒のサイドゴアをセットしました。普通であればアウターはチェスターコートを合わせるようなスタイリングに、あえてアークティックパーカをチョイスしてハズしの要素を演出することで、現代的な着こなしにまとめました。
アークティックパーカの中でも「ARCTIC PARKA TT」はトーンオントーンでファーに立体感があるため、着用したとき少しドレスアップした印象にみえました。それを利用して、スポーティにハズすのでは無く、あえてラグジュアリーなイメージに寄せたスタイリングに仕上げています。
モノトーンのバッファローチェックはクラシックな赤黒からファッションユースのために派生したもの。私のモノトーンのイメージは80年代から派生したパリなので、その空気感をMIXしてみました。80年代のGジャンやボタンダウンに黒のニットタイ、スラックスと革靴はフランスのブランドでまとめています。
ジャケットからスラックスまで表情のあるモノトーンのアイテムでまとめているので、とことんこだわってソックスまで白黒のボーダーに。わかる人にしかわからない、所謂モテないコーディネートだと思いますが、それで良い(笑)ここまで振り切ったスタイリングにチャレンジできるのも、デザインが完成されているウールリッチのアウターだからです。
一見すると、無地のグレースーツにネイビーのストライプタイを合わせたオーソドックスなスタイリング。ですが、シャツにタブカラーを選んでいたり、スーツの仕立てや素材に重厚感があったり、随所にクラシックなムードを際立たせる要素を入れることで、スポーティなダウンジャケットとのギャップを生み出す。そんな着こなしが個人的にとても好みで、格好良いんじゃないかなと思い、実践してみました。
ウール生地のダウンジャケットというのもポイントです。私は少しカジュアルダウンした服装でも小綺麗にしたい派なのですが、例えばTシャツ×ジーンズにダウンジャケットを羽織るときも、こんなウール素材なら凄くお洒落に見える。テーラードジャケットの上に着る想定で仕立てられた綺麗なダウンジャケットなども世の中にはあると思うんですけど、それをTシャツとジーンズの着こなしに合わせると私の中ではチグハグ感が生まれてしまう。その綺麗過ぎないバランスが取れているのは、アウトドアブランドとしての側面もあるウールリッチだからこそなのかなと思いますね。
我々のようなアパレル業界に身を置いていたり、相当な服好きでなけば、高価格帯のアウターは年に1着、あるいは数年に1着購入して、同じアウターを着回すというケースが多いと思います。そうなると、ダウンジャケットを購入するうえで“幅広いスタイリングにフィットする汎用性の高さ”を重要視したい。ただ、着回し力が高いアウターとは何か具体的に考えると、意外にパッと答えが出てこないということは多いのではないでしょうか。
汎用性の高いダウンジャケット選びは、簡単なようで難しいですよね。代表的なポイントを挙げると、“オンオフ使える”は間違いないと思います。